検 証
「F2だから、ここは行けない」と言われます。
3,587日・541,018回のスタートで確かめた記録です。
「①はF2ですからね。ここは行けないでしょう」
レース前の解説で、よく聞く一言です。行けない、行かない、慎重にならざるを得ない。言い方はいくつかあっても、どれも本人に確かめた話ではありません。
Fはフライング、合図より早くスタートラインを越えることです。切れば、その期のどこかでフライング休みに入り、2本目を切ると休みはさらに長くなる。だから攻められない、という理屈になります。
理屈は通っています。通っているので、数えました。
2016年11月1日から2026年8月27日まで、3,587日分の競走成績を1レースずつ見ていきました。1コースに入った舟を数えると、541,018回。同じ期間に、全部のコースで切られたFは12,753件。
F本数の数え方は、出走表と同じにしました。各期の初日、5月1日と11月1日に0へ戻し、そこからの累積を数える。出走表で見ている「F1」「F2」と、同じものを数えていることになります。
F本数と級別で分けて、1コースのスタートタイミングを並べました。
並びはきれいで、A級のF2は0.1835秒と、B級のF0の0.1652秒より遅い。1着率も、A級のF0の66.3%から、F2では50.7%まで下がっていた。
これで話は終わった、と思いました。
ところが、これは見間違いです。
この図が比べているのは「F2の選手」と「F0の選手」で、別人どうし。A級のF2で1コースに入った1,671回を走ったのは、F2まで切ってしまう選手たちで、その人たちがもともとどんなスタートを踏むのかは、図からは分からない。
54万回を数えて、別人は別人だと確かめたことになります。
なぜ遅いのかを知るには、本人の胸の内が要ります。それは、データには入っていない。持っているのは、時計だけ。
そこで、比べる相手を変えました。同じ選手の、F0だったときと、F1やF2になったあとを引き算する。この形なら、その人がもともと速いか遅いかは、差し引かれて消えます。
| 比べた変化 | STの変化 | 遅くなった人 | 対象 |
|---|---|---|---|
| F0 → F1 | +0.0158秒 | 82.6% | 1,746人 |
| F0 → F2 | +0.0430秒 | 88.3% | 274人 |
F2まで進んだ選手の、10人に9人近くが遅くなっている。
たまたま遅い日が重なっただけ、ということはないのでしょうか。選手ごとに、1コースに入った日を単位にして、F0の日とF1の日のラベルだけを1,000回入れ替え、同じ計算をやり直しました。偶然なら、遅くなる人の割合は平均で49%、いちばん多い回でも53%で、実際の割合に届いた回は一度もありません。
この比べ方から外れた人もいる。F1で1コースに入った1,839人のうち、比べたのは1,746人で、F2は442人のうち274人。F0で10回、F1やF2で3回、1コースに入っていない選手は、1回か2回の走りで平均が決まってしまうので外しました。スタートが数字にならなかった3,595回、つまりフライングの3,548回と出遅れの47回も、平均には入れていません。外した走りのほとんどはF0の側にあり、F0を遅く見せる、差を縮める向きに効く。
この遅れは、どれくらいの大きさなのか。物差しは、さきほどの図にあります。F0だけで見ると、A級とB級の平均STの差は0.0190秒で、級がひとつ違うと、それだけ変わる。
F2になった同じ選手の遅れは、その2倍を超えます。A級のF0の平均に足せば、B級のF0の平均を追い越してしまう大きさです。
出走表や結果に載るSTは、0.01秒刻みで記録されています。その目盛りで数えると、級ひとつぶんは2目盛りに届かず、F2の遅れは4目盛りと少し。A級のF0の平均はおよそコンマ15なので、そこに足すとコンマ19になる勘定です。
ここで、当然の疑いが出ます。
F0だったのが何年も前なら、年を取ったぶんだけ遅くなっていても不思議はない。それを「Fのせい」と読んでいるだけではないのか。
そこで、比べるF0を、Fを切る直前の2期、つまり半年から1年のあいだの走りに絞りました。遅くなった人の割合は、F1で82.6%から69.7%に落ち、F2は87.8%で、ほとんど動かない。F2の遅れだけは、時間を詰めても残る。はじめは、そう読みました。
引っかかったのは、F2の人数でした。比べられたのは181人で、この人数では、割合が5.6ポイントより小さく動いても、偶然と区別がつかない。ラベルを入れ替えた1,000回のうち、569回は実際より大きく動いている。F2が動かなかったことは、何の証拠にもなっていません。この記事の前の版は、その証拠にならないものを太字にしていました。
秒で並べ直すと、同じ選手どうしで、F1は0.0020秒、F2は0.0024秒縮んでいた。F2のほうはこの人数では見分けのつかない幅ですが、年齢のぶんが混ざっていたのは、F1に限った話ではなさそうです。それを抜いたあとも、F2の遅れは0.0412秒あり、偶然で届く幅の5倍を超えています。
向きは、級で割っても年で割っても同じ。A級でもB級でも、2016年から2025年のどの組でも、同じ選手はF1になると遅くなっています。
F持ちの話には、もうひとつ、よく聞く続きがあります。
「隠れF持ちは初日に負ける」
期が替わると、出走表のF表記は0に戻ります。けれどもフライング休みを、まだ消化していないことがある。表の上ではF0なのに、中身はF持ちという選手のことです。
これは、この記事の数え方の穴そのものでした。期の初日に0へ戻す数え方では、隠れFはF0の側に入る。では、F0のうち、どれくらいが隠れFだったのか。
前の期にFを切った選手のF0を「隠れF」として数えると、2017年5月からのF0の441,344回のうち、154,565回がそうでした。35.0%、3回に1回です。
| 比べたもの | 変化(秒) | 人数 |
|---|---|---|
| 隠れF − きれいなF0 | +0.0055 | 1,716 |
| きれいなF0 → F1 | +0.0177 | 1,661 |
| きれいなF0 → F2 | +0.0453 | 269 |
同じ選手で比べると、隠れFのときのスタートは、きれいなF0のときより0.0055秒遅い。偶然で届く幅の5倍あまりで、F1になったときの遅れの、およそ3分の1にあたります。人をまたいで平均すると0.1540秒と0.1537秒でほぼ同じになり、ここでも別人どうしの平均が差を隠していました。
隠れFを基準から外して数え直すと、F0からF1への遅れはおよそ1割、F2は5%ほど広がりました。穴は、思っていたとおり差を縮める向きに開いていたことになる。数え方の穴を白状するつもりで数えたら、穴の中にも俗説が入っていました。
「初日に負ける」のほうは、節の何日目かを区別していないので、ここでは確かめていません。
もうひとつ、逆向きに見える数字が残っている。10年間で一度もFを切らず、F0で1コースに10回以上入った選手は78人いて、先に断っておくと、この78人には偏りがあります。最初に1コースに入ったとき、78人のうち69人がB級で、1コースに入った回数は中央値で73回と、切った側の237回の3分の1に届かない。そもそも1コースにあまり来ない人たち。
その78人の1コースの平均STは0.1897秒で、期間中にFを切ったことがある1,854人の、F0だったときの0.1595秒より遅い。Fを切る人は、切る前から速く踏んでいたことになります。
ただ、それが速く踏む人ほど越えてしまうからなのか、1コースに来ない人は切る機会も少ないだけなのかは、この78人では分けられません。
フライングの罰則は、2022年5月、2023年度、2025年と、3回改められました。4つの区間に分けて数え直すと、F0とF1の平均STの差は0.0095秒から0.0134秒の範囲に収まり、向きは変わっていません。
全員が遅くなるわけでもない。F2の状態で1コースに3回以上入り、その中に0.06秒より速いSTを含む選手が、50人いる。
時期が違えば、同じ選手の中で比べてもモーターも場も相手も変わるのに、そのぶんは揃えていません。
理由も書けません。遅くなった、という事実までがデータの届く範囲で、その人が何を考えて踏んだかは、時計には映らない。
「F2だから行けない」は、間違ってはいませんでした。隠れFのぶんまで数えれば、遅れは少し大きくなる。
ただ、F2の選手が、遅いわけではない。
F2は遅いのではない。
同じ選手が、遅くなる。
集計期間 2016/11/1 から 2026/8/27 / 3,587日・541,018回
出典:公式サイト 競走成績(Kファイル)・番組表(Bファイル)。記事の数字は固定で、更新されません。
上の記事が今も成り立っているかを、毎日確かめている欄です。
記事とは別の期間・別のデータ源で、同じ向きが出るかだけを見ています。
読み物ではありません。向きが変わったら、記事のほうを書き直します。
記事の中の断定的な一行が、今も成り立っているかの一覧です。
「—」は、判定できる分母に届いていないという意味です。
| 文 | 条件 | 現在 | |
|---|---|---|---|
| F持ちのSTは遅い側にある | F1の平均STがF0より遅い | 0.1491 / 0.1606 | ✓ |
| 同じ選手の中でも遅くなる | F0→F1で遅くなった選手が半数を超える | 68.7%(518人) | ✓ |
| Fを切る人は、切る前から速く踏んでいる | Fありの選手のF0時STが、Fなしの選手より速い | 0.1478 / 0.1563 | ✓ |
| 1着率もF0のほうが高い | F0の1着率がF1を上回る | 55.8% / 53.5% | ✓ |
| F2は、この欄では判定しない | F2の枠が200以上、かつ個体内が20人以上 | 119枠 / 16人 | — |
この欄の期間だけで数え直した、1コースのスタートタイミングです。
| 枠数 | 平均ST | 1着率 | |
|---|---|---|---|
| F0 | 46,167 | 0.1491 | 55.8% |
| F1 | 5,642 | 0.1606 | 53.5% |
| F2 | 119 | 0.1639 | 48.7% |
この検証がどれだけのデータで出ているかです。日が経つほど増えます。
| 項目 | 件数 |
|---|---|
| 数えた日数 | 341 |
| 数えたレース | 51,932 |
| 1コースの枠 | 51,928 |
| 個体内で比べた選手(F1) | 518 |
| 個体内で比べた選手(F2) | 16 |
| Fを切った選手 | 700 |
| 一度も切っていない選手 | 762 |
集計期間 2025/11/1 〜 2026/10/7 / 最終更新 2026/10/07
このページは毎日、前日までの結果で自動更新されます。