検 証
「冬はイン、夏はまくり」。公式サイトの入門ページにも書いてある話は、本当なのか。
約10年分の成績を、冬と夏で並べて数えた記録です。
12月の直前情報を開くと、右の端に水温が出ています。8℃、7℃。数字が一桁になると、1号艇の欄を見る目つきが少し変わる人がいる。
「冬はイン、夏はまくり」
寒いとモーターがよく回るので、先に回った1号艇がそのまま逃げる。夏は外から攻めた舟が届く。ボートレースの公式サイトの入門ページにも、そういう趣旨のことが書いてあります。公式が書いているのだから、わざわざ疑う人はあまりいません。
こういう話を、わざわざ疑うのがこの連載です。
2016年11月1日から2026年8月31日まで、3,591日分の競走成績を1レースずつ数えました。全部で541,558レース。冬は12月から2月、夏は7月と8月として、春と秋は比べる相手から外しています。
数えたのは、枠番ではなく、実際に1コースへ入った舟のほう。前づけで1号艇が2コースに押し出されたレースなら、代わりに1コースへ入った舟が主役になる。
1コースの1着率は、冬の141,772レースで54.72%、夏の96,065レースで53.71%でした。
冬のほうが1.01ポイント高い。俗説は当たっています。
月ごとに並べてみると、形が少し違って見えます。いちばん低いのは7月と8月で、夏の谷ははっきりしている。一方で冬の3か月は真ん中あたりにいて、いちばん高いのは3月と11月でした。図の形だけで言えば、「冬はイン」より「夏はインが苦手」のほうが近い。
公式サイトに書いてあることが当たっていた、で済むなら、この記事はここで終わる。終わらないのは、冬という季節に、もうひとつ別の顔があるからです。
冬は、番組が違います。年末年始には大きな開催が続き、強い選手が1号艇に座る日が増える。だとすれば、冬が1号艇を強くしているのではなく、冬の1号艇にもともと強い選手が座っているだけかもしれません。
そこで、比べる相手を揃えました。同じ場の、同じ年のレースで、レースの区分も揃え、1コースの選手の強さと外の5艇の強さまで合わせる。強さの物差しは、その選手の直前12か月の1着率。番組のぶんを抜いたら、差はどこまで縮むのか。
取り直した差は、1.2ポイント。
縮むはずだった差が、少し伸びている。意地悪く疑ったつもりが、俗説の後押しをしただけで終わりました。
念のため、揃えた組の中で冬と夏のラベルだけを1,000回入れ替えて同じ計算をしてみましたが、偶然でこの差に届いた回は一度もありませんでした。
そのかわり、揃えると落ちるレースも出ます。冬と夏の両方がそろわない組は比べようがないので、冬は141,772レースのうち131,153レース、夏は96,065レースのうち94,481レースが残りました。落ちたのは、同じ場、同じ年、同じ強さの組み合わせが、冬か夏の片方にしか現れなかったレースです。
たまたま強い冬が何年か混じっていただけ、ということもあり得る。そこで冬と夏を年ごとに分け、12月は翌年の冬に入れて、同じように揃え直しました。
10年のうち9年で、冬が上。2022年だけが夏に負けていて、理由を探して数え直しましたが、2022年は何度数えても2022年のままでした。
選手を固定しても、向きは変わりません。同じ選手が同じ場の1コースに、冬と夏それぞれ10回以上入った1,134組を並べると、冬のほうが1.69ポイント高い。場を問わず冬と夏に30回以上ずつ入った1,328人で見ても、1.55ポイント高い。同じ人間が、冬のほうが少しだけよく勝っています。
冬の上乗せは、誰の1号艇にも同じように乗るのか。1コースに入った選手を直前12か月の1着率で段に分けて、段ごとに冬と夏を比べ直しました。
| 1コースの選手 | 冬の1着率 | 冬から夏を引いた差 |
|---|---|---|
| 15%未満(84,335レース) | 37.87% | +1.3 |
| 15%以上25%未満(81,411レース) | 60.06% | +1.5 |
| 25%以上35%未満(55,157レース) | 71.14% | 数が足りない |
| 35%以上(4,623レース) | 74.07% | 数が足りない |
弱いほうの2段では、冬の上乗せは1.3ポイントと1.5ポイントで、どちらも偶然では届かない大きさでした。強いほうの2段は、この数では1ポイントほどの差を見分けられず、大きいとも小さいとも言えません。いちばん強い段は10年で4,623レースしかなく、条件を揃えるほど比べる相手がいなくなる。強すぎるのも、数える側には困りものです。
それより目を引くのは、表を縦に読んだときの並びのほう。同じ冬でも、1号艇に座っているのが15%未満の選手なら37.87%、25%以上35%未満の選手なら71.14%。季節が動かすのは1ポイント台で、座っている人は30ポイント以上動かしています。
では、この差はどのくらいの大きさなのか。
ひとつの場では1日に12レースあります。冬に1週間通えば84レースで、その間に1号艇が勝つ回数は、夏の1週間より1回多い計算になります。
84レースのうち、1本。
これを確かめるために10年分を数えたことは、あまり考えないようにしています。
1コースの1着率は、もともと冬でも夏でも半分を超えています。そこに1ポイントあまり足されても、1号艇に印を足すかどうかの判断は、ほとんど動かない。
それでも、冬の話にはもうひとつ、よく聞く続きがあります。
「寒いとモーターが出る」
出ているなら、どこに跡が残るのか。まず、1コースのスタートタイミングを場ごとに冬と夏で並べました。差は0.0006秒。ストップウォッチを押す指のほうが、よほど揺れる差です。スタートの速さは、季節で変わっていない。
次に、1着の舟がゴールするまでの時間を、同じ場どうしで比べました。1周600メートルを3周する1,800メートルのレースで、冬のほうが2.52秒短い。
冬の水面を見ていて、舟が速いと感じるのは、気のせいではありません。寒いとモーターが出るという話は、時計の上でもきちんと起きていました。
ただ、こうなると勘定が合わない。2.5秒も速くなる冬に、1号艇の取り分はほとんど増えていない。1号艇だけが速くなっていたのなら、この程度では済まないはずです。
冬の現場で目に入るのは、舟全体が速くなったことのほう。こちらが数えていたのは、その速くなった6艇の中で、1コースの舟が先頭に立つ回数でした。全員が同じだけ速くなれば、並び順は変わらない。
冬は速い、は本当で、冬はインが勝つ、もおおむね本当です。ただ、前者の大きさを、後者の大きさだと受け取ってしまうと、印が1つ多くなる。
残るのは「夏はまくり」のほうです。夏になって増える決まり手は、本当にまくりなのでしょうか。
決まり手の割合を同じ組で揃えて、冬から夏を引きました。
夏にいちばん増えているのは、まくりではなくまくり差しでした。まくりの増え方は、その半分しかない。差しにいたっては、冬のほうが多い。
「夏はまくり」は、向きは合っていて、名前だけが少しずれていたことになります。
季節ではなく、気温そのもので見たらどうなるのか。気温と水温が手元に残っているのは、2025年7月15日からの14か月だけです。
場と1コースの選手の強さで揃えて、気温5℃ごとに1コースの1着率を出しました。
| 気温 | レース | 1コースの1着率 |
|---|---|---|
| 5℃未満 | 1,721 | 55.51% |
| 5℃以上10℃未満 | 7,171 | 55.96% |
| 10℃以上15℃未満 | 10,069 | 56.18% |
| 15℃以上20℃未満 | 9,167 | 55.21% |
| 20℃以上25℃未満 | 10,021 | 54.93% |
| 25℃以上30℃未満 | 11,620 | 54.94% |
| 30℃以上 | 12,745 | 53.63% |
暑いほうへ行くと下がる向きは、季節の数字と合っています。
ところが、いちばん寒い5℃未満は10℃台より低い。はじめの月別の図で、いちばん高かったのが真冬ではなく3月だったのと、同じ形です。
寒ければ寒いほどインが強い、という形にはなっていません。もっとも、この14か月に入っている冬はひと冬だけで、統計というより日記に近いのですが。
最後に、風のせいにできないか試しました。風速ごとに、冬と夏のレースの散らばり方を並べると、こうなる。
| 風速 | 冬 | 夏 |
|---|---|---|
| 1m以下 | 29.0% | 20.6% |
| 2m以上3m以下 | 40.0% | 49.5% |
| 4m以上5m以下 | 21.1% | 23.7% |
| 6m以上 | 9.9% | 6.2% |
6m以上の強い風は、たしかに冬のほうが多い。ところが1m以下のほぼ無風も冬に多く、冬は荒れる日も凪ぐ日も多い季節だったわけです。どちらの季節でも、6mを超えると1コースの1着率は46%から47%台まで落ちる。風の強さの内訳を夏と同じに揃えて冬の1着率を計算し直しても、54.7%のまま動きませんでした。風に罪を着せる計画は、ここでおしまい。
開催の格は揃えていません。SGやG1といったグレードが、成績のファイルに載っていないからです。選手ごとの強さは揃えたものの、開催の格そのものが効いている可能性は残る。
では、「冬は重量級が有利」という続きはどうか。これには答えていません。体重が手元にあるのは2026年1月からで、冬をひとつしか含まないからです。湿度は、そもそも持っていない。
2着以下の舟のタイムも数えていません。冬に速くなったのが6艇全体だという読みは、1着のタイムと1着率の差から組み立てたもの。
「冬はイン」は、当たっていました。10年のうち9年、同じ選手どうしで比べても、冬の1号艇は夏より勝つ。
ただ、冬に速くなるのは1号艇だけではありません。舟は2.5秒速くなり、1号艇の取り分は1.2ポイント。ひとつの場に1週間通って、1本ぶん。
水温が一桁の日に変わっているのは、舟の速さのほうです。並び順は、ほとんど変わっていません。
集計期間 2016/11/1 から 2026/8/31 / 3,591日・541,558レース
出典:公式サイト 競走成績(Kファイル)・当サイトの結果データ(気温・水温)。この期間の数字は固定で、更新されません。