検 証
「チルトを跳ねた艇は穴」。直前情報でよく聞く話を、9年半の直前情報と成績で数えました。3度の欄に一番多く出てくる名前から、話は始まります。
「チルトを跳ねた艇は伸び勝負。穴の目印」。直前情報(レースの前に公式が出す展示などの情報)のチルト(モーターの取り付け角度で、上げるのを「跳ねる」、最大の+3.0を「3度」と呼ぶ)の欄に+0.5や+3.0を見付けると、印を1つ足したくなる。こちらは、印を足して当たった日を全て覚えています。外れた日は、1日も覚えていない。
9年半の3度の艇(延べ3,799艇)のうち、559艇が菅章哉(徳島)でした。その菅も、2017年(4月8日から)は213走のうち193走を−0.5で走っています。下げる人が、跳ねる人に変わっていました。
数えたのは、2017年4月8日から2026年9月30日までの3,463日、52万2,713レース、約314万艇のチルトです。確かめることは3つ。跳ねると伸びるのか、今日だけ跳ねた艇は違うのか。そして、差は角度の欄にあるのか、それとも、その隣の欄にあるのか。直前情報の過去分と、競走成績の着順・進入を、日付と場とレースと枠で突き合わせました。
最初は、公式サイトの直前情報を1ページずつ集めるつもりだった。1ページにつき9秒待たされるので、50万ページ以上、待つ覚悟でした。2017年4月からのチルトは、別の保管庫に最初から全部置いてあって、覚悟は数分で要らなくなりました。
チルトの単位は度で、−0.5から+3.0まで0.5刻みで選べます。上げると船首が浮いて直線は伸び、その分ターンと出足は落ちるとされます。まず、普段の角度から。約314万艇のうち、−0.5が70.6%、0.0が25.9%で、+0.5以上は3.5%しかいません。跳ねた艇は、100艇に3艇か4艇の少数派です。
もう1つ、場によって普通が違う。江戸川では全12万318艇のうち54.3%が+0.5以上で、住之江では全13万500艇のうち88.6%が−0.5です。3度の艇が出ているのは、24場のうち18場。残りの6場は使える角度に上限があり、桐生1度、戸田0.5度、江戸川と徳山2度、住之江と福岡1.5度です(公式サイト)。9年半のデータの最大値も、この上限とぴったり一致しました。
同じ+0.5でも、江戸川では当たり前の調整で、住之江では目立つ一手になる。なので、差を比べる時は、同じ場・同じ進入コース・同じ級別(選手のランク。A1からB2まで)の組の中で0.0の艇と比べ、組ごとの差を合わせています。これを「揃えた差」と呼び、単位はポイント(率と率の差)です。
1つ目の問い、跳ねると伸びるのか。6コースで角度ごとに1着率を並べると、こうなる。
| 角度 | 6コースの1着率 | 艇数 |
|---|---|---|
| −0.5 | 1.6% | 34万2,129 |
| 0.0 | 2.0% | 14万4,864 |
| +0.5 | 3.4% | 1万9,154 |
| +1.0から+2.5 | 5.6% | 7,132 |
| +3.0(3度) | 11.9% | 2,516 |
角度を上げるほど、段を踏んで上がっていく。展示タイムの順位を見ても同じ向きで、6コースの3度は6艇中の平均1.32位(2,521艇)、0.0の艇は3.78位でした。勝ち方も、ほとんどがまくり(外から内の艇を抜いて勝つ形)。6コースの3度は、1着率11.9%のうち、まくりでの1着が11.3ポイント分でした。伸びるという話は、少なくとも展示と決まり手の上では数字に出ています。
2つ目の問い。普段は0.0以下の選手が、この日だけ跳ねた時です。直前情報を見て「お、跳ねてきた」と思う、あの場面。4から6コースで数えると、約70走に1回、1着が増える程度でした。1着率は7.3%(1万2,713艇)で、0.0の艇(42万2,072艇)の6.4%より高く、揃えた差は+1.4ポイントです。
組の中で跳ねた艇と0.0の艇の区別を1,000回入れ替えても、+1.4ポイントより大きな差は一度も出ませんでした。偶然とは言えない。ただ、小さい。3着以内に入る率で見ると、差は見分けられる大きさに届きません。
この連載では、検証06で印を動かすほどではなかった差を目安に、境目を2.0ポイントに置いてきました。全体で見ると、今日だけ跳ねた艇は、選手ごとの揺れの2倍を足して上に見積もっても、この目安に届かない。ただ、跳ねるのが当たり前の江戸川を外して数え直すと、差は+2.0ポイントで、目安にちょうど並びます。こちらが覚えている当たりの日も、その70走に1回だったのかもしれません。
跳ねる人とそうでない人で分けたらどうか。その日より前の30走で何回跳ねたかで、4から6コースの跳ねた艇を3つに分けました。揃えた差は、0.0の艇との差です。
| 誰が跳ねたか | 艇数 | 1着率 | 揃えた差 |
|---|---|---|---|
| 今日だけ(0回) | 1万2,713 | 7.3% | +1.4 |
| ときどき(1から14回) | 4万6,086 | 8.6% | +3.0 |
| 常連(15回以上) | 6,505 | 14.0% | +8.9 |
跳ねてきた回数が多いほど、差は大きい。常連は、9年半で301人いました。6コースの3度も、1着率は6コースの0.0の艇の6倍で、揃えた差は+9.7ポイントです。ただし、4から6コースの3度の艇3,708艇のうち、1,732艇は常連です。常連と3度は、別々の裏付けにはならない。
3つ目の問い。「跳ねる選手が強いのは、選手がうまいからで、角度のせいじゃない」。これは、もっともな疑いです。
そこで、同じ選手の中で比べました。同じ人・同じ場・同じコースで、跳ねた日と0.0の日を並べる。これで消えるのは、腕前や癖のような、選手ごとに変わらない違いの分。
常連の差は+8.9から+5.2ポイントに、6コースの3度は+9.7から+5.1ポイントに縮みました。ときどき跳ねる艇も+2.1ポイントに縮み、今日だけ跳ねた艇は+1.2ポイントとほとんど動きません。今日だけの艇は、もともと普段は跳ねない人の集まりで、選手の違いがあまり入っていなかった。
同じ比べ方で、インの−0.5も見ておきます。1コースの−0.5は1着率54.8%(38万1,161艇)で、0.0の55.9%(12万7,427艇)より低く出る。下げると負けるように見えますが、同じ選手の中では、見分けられる差は残りませんでした。
常連と3度で道具の差に見えたものの4割から5割は、道具を選んだ人の差だった。同じ選手の中で残った差にも、その日のモーターや水面が混ざっている。これだけ数えても、角度のおかげで勝った艇は、1艇も指せません。
舟券の上では、1着率とは少し違う形が出る。
「外の艇なんて、もともと買われ過ぎだろう」。その通りで、4から6コースの0.0の艇を単勝で100円ずつ買い続けると、戻るのは58.1円(回収率58.1%)。単勝の払戻率75%を大きく下回ります。6コースの0.0の艇に限ると32.8%です。
跳ねた艇の回収率と、0.0の艇との揃えた差を並べます。
外の艇は1着になれば配当が大きいので、1着率の差が小さくても、回収率の差は大きく出る。同じ選手が何度も走っているので、選手ごとのまとまりで揺れを測り直すと、はっきり見分けられるのは「ときどき」で、常連・今日だけ・6コースの3度は、見分けられる最小の差をわずかに超える程度、境目すれすれでした。ときどき跳ねる艇は、外の艇の中では買われ過ぎが小さい。
ただし、どれも100%はおろか、払戻率の75%にも届きません。複勝(2着以内で当たり)で比べても、はっきりした差が出たのは「ときどき」の+7.2ポイントだけでした。6コースの3度は、フライングや出遅れ・欠場で返還になった割合が1.8%と、0.0の艇の0.4%より高く、その払い戻しの分だけ回収率が押し上げられています。返還を戻さずに数えると、6コースの3度の差は見分けられる最小の差に届きません。3連単の2着や3着として使った時の回収率は、今回は数えていません。
1着率の差には、選手の違いのほかにも疑えるものがあります。まず部品とプロペラ。保管分に入っていないので、公式サイトの直前情報を取りに行きました。結局、あの9秒とは付き合うことになりました。2017年から2025年の2万8,261レースで見ると、部品を替えていた艇は、0.0で3.6%、+0.5から+2.5で3.5%と、跳ねた日に増えてはいない。3度だけ5.0%と少し高め。新しいプロペラは、どの角度でも0.6%前後。部品かプロペラを替えた艇を除いても、跳ねた艇と0.0の艇の1着率の差は、5.0ポイントが4.8ポイントになるだけでした。
2017年4月より前の158日も、公式から取りました。この頃は−0.5が88.0%で、+0.5以上は1.1%しかいません。それでも4から6コースで跳ねた艇の1着率は、場とコースを揃えると0.0の艇より5.7ポイント高く、向きは同じでした。
跳ねるレースには、風も重なっていました。江戸川を除いた4から6コースで、跳ねた艇の割合は風2m以下のレースで1.9%、5m以上で3.1%。24場のうち22場で、風の強いレースの方が高くなりました。
それでも残るものがあります。
3度を一番多く使っているのが、冒頭の菅です。本人は2025年11月、住之江でのSGグランプリ(最上位の格の大会)の開催に合わせたトークショーで土下座して、こう頼んでいます。
「住之江の方、チルト3度お願いします。あと特別枠でのグランプリ出場も検討してください」(東京スポーツ)
菅の3度が初めて出るのは2018年で、この年は4走。その後、2021年に55走、2025年には116走と増えていきます。3度の1着率は、4コースで47.6%(103走)、5コースで35.3%(156走)、6コースで21.4%(271走)です。上限1度の桐生で開かれた2026年8月のSGメモリアルでは「6コース一本やりは四国に置いてきました」と話しています(東京スポーツ)。
3度は、菅1人のものでもない。6コースの3度で一番多く走ったのは澤大介(三重)の327走で、菅の271走より多い。
俗説の「伸びる」は当たっていて、単勝で見る「穴の目印」は言い過ぎでした。1着の差で見れば、今日だけ跳ねた艇は印を動かすかどうかの境目あたりで、跳ね続けてきた選手と3度ははっきり出る。単勝の回収率は、ときどき跳ねる艇ではっきり0.0の艇より高く、ほかは境目すれすれ。どれも元が取れるほどではありません。
2017年の菅は、213走のうち193走を−0.5で走っていました。9年半で、3度の欄で一番見る名前になった。常連と3度の1着の差の4割から5割は、チルトの欄ではなく、隣の名前の欄に書いてあった。
集計期間 2017/4/8 から 2026/9/30 / 3,463日・522,713レース
出典:BoatraceOpenAPI 直前情報の保管分・公式サイト 競走成績・番組表。この期間の数字は固定で、更新されません。